今月のちょっといい話
気持ちが伝わる文字
幼い頃、私が朝起きればテーブルには母の書き置いたメッセージがあった。
仕事で早朝に家を出ることも多かった母が、私に日々の連絡をするためだった。
毎朝メッセージを見るたび嬉しかったのを覚えている。
しかし、次第にそんなこともしなくなり、私が小学校高学年になる頃には私はスマホを持ち、家族との連絡もLINEなどを通してするようになった。
ある日のことだ。
いつにもして母が忙しく、私も部活や塾で互いになかなか顔を合わせることができなかった時。
私が塾から帰宅しキッチンに向かうと、一枚のメモがあった。
「冷蔵庫にご飯あるよ」
久しぶりに書かれた母からの手書きのメッセージだった。
普段ならLINEで済ますような連絡なのだが、その時の私の心には響くものがあった。
いつもより少し形が乱れた字。
家を出る直前に料理を終え、急いでメッセージを書く母の姿が目に浮かぶ。
特徴的な丸い文字や誤字を消した痕の一つひとつに、忙しい中、夕食を用意してくれた母の優しさがギュッと詰まっているような気がして、なんだかホッとした。
近年、デジタル化により文字を書く機会が減っていると言われている。
時間をかけて字を書くより、スマホやパソコンでメッセージを送る方が便利だ。
しかし、手書きの文字にはそれらにはない不思議な力あると思う。
手で書かれた文字は書く人や状況によって全く違う形になる。
誰が打っても変化のない画面上の文字より、書く人の気持ちやその人らしさが伝わるのが手書きの文字ではないだろうか。
私が母の文字を見て嬉しくなった安心したりしたのは、きっと文字に母の気持ちを感じたからだ。
便利さにとらわれすぎず、相手のことを想って伝えようとすることは、とても大切なことだと思う。
この母のメッセージを通して感じたことをこれからも忘れないようにしたい。